「これくらいなら大丈夫だろう」。そんな軽い気持ちで行ったDIYが、退去時に大きなトラブルへと発展してしまうことがあります。これは、実際にあった賃貸フローリングをめぐる悲しい事例です。入居者のAさんは、住んでいたアパートの古いフローリングのデザインが気に入らず、大家さんに相談することなく、自分で新しいフローリングシートを上から貼り付けるDIYを行いました。見た目もきれいになり、満足していたAさん。しかし、数年後、退去する際に行った立ち会いで、管理会社の担当者から衝撃の事実を告げられます。「シートを剥がさせてもらいますね」。担当者がシートを剥がすと、その下には、黒カビがびっしりと生えた、無残な状態の元のフローリングが現れたのです。原因は、Aさんが湿気対策を怠ったまま、通気性の悪いシートを長期間敷きっぱなしにしていたことでした。カビはフローリングの表面だけでなく、内部にまで深く浸食しており、もはやクリーニングでは回復不可能な状態。結果として、Aさんはフローリングの全面張替え費用として、20万円を超える高額な原状回復費用を請求されることになってしまいました。Aさんは「良かれと思ってやったのに」「こんなことになるとは知らなかった」と主張しましたが、契約書には「貸主の承諾なく造作の変更をしてはならない」と明記されており、その主張は通りませんでした。この事例から学べる教訓は二つあります。一つは、「自己判断でのリフォームは絶対にしない」ということ。どんなに小さな変更でも、必ず事前に大家さんや管理会社に相談し、許可を得る必要があります。もう一つは、「良かれと思って」という善意が、必ずしも良い結果を生むとは限らない、ということです。特に、見えない部分で進行する湿気やカビの問題は、素人判断では見抜けません。賃貸物件は、あくまで「借り物」であるという意識を常に持ち、契約書のルールを遵守すること。それが、こうした悲劇を避けるための、最も確実な方法なのです。